image.png

<aside> 💡

このページは、DHUの研究紀要への報告を再掲したものです。

DHUの学費担当として、2010年代前半から学費理由による中退問題に取り組んできました。「学生を信頼し、約束し伴走する」ことで、学費理由の中退率を半減させることができました。

DHUにおける約束と信頼に基づく学費支援策による学生定着と卒業率向上

Enhancing Student Retention and Graduation Rates with Commitment-Driven Financial Support at DHU

金野 秀彦 KONNO Hidehiko

デジタルハリウッド大学 事務局 学費・奨学金担当

Digital Hollywood University Office, Tuition Scholarship Supervisor

DHU(デジタルハリウッド大学、以下「本学」)では、2013年度から学費支援策を改善し、経済的理由や学費未納による中退率が大幅に低減した。本報告では、2012 年度生以前と2013 年度生以降の学籍推移を比較し、学費未納による中退が約半減したことを示す。また、2012 年度から2013 年度にかけて実施した、中退と卒業に関する分析と仮説の立案、改善方針の策定およびその継続的な実践の経緯を述べる。特に、約束と信頼を基本方針として重視し、約束を「卒業の約束」「期限の約束」「金額の約束」の3 つの要素に整理したこと、さらに、作業自体が目的化していた過去の状況から脱却し基本方針に沿った目的志向の業務に改善するよう尽力したこと、それらの取り組みが成果を上げ、以降の業務改善においても基礎としていることを述べる。

1. はじめに

本学の年度生ごとの学籍推移を比較し、経済的理由や学費未納による中退が2012 年度までに比べ、2013 年度以降約半減していることを示す。これは、後述の学費支援策の成果であり、卒業者数の増加にもつながった。

1.1 年度ごとの中退率と年度生ごとの中退率の捉え方

中退率には「年度ごとの中退率」と「年度生ごとの中退率」の2 つがある。まず、それぞれの集計方法と目的を説明する。

1 つ目は「年度ごとの中退率」で、年度初めの学生数を基に年度内の中退者数を算出する。文部科学省の「令和5 年度 学生の中途退学者・休学者数の調査結果について」[1] によると、学校種別が大学の中退率は2.04% である。これは、年度ごとの中退動向や施策の効果を評価するために用いられている。

2 つ目は「年度生ごとの中退率」で、入学年度ごとの学生数(新入生数)を基に最終的に卒業もしくは中退となるまでを集計する方法である。最終的にすべての学生が卒業か中退になるため、年度生ごとの卒業の達成状況を正確に把握できる。中退率の目安としては、前述の文部科学省の調査での中退率を4 ~4.5 倍した8 ~9% 程度が年度生ごとの中退率の日本国内の平均と考えると検討しやすい。本稿ではこの「年度生ごとの卒業中退」を中心に分析を進める。

1.2 本学の学費未納中退率の推移

図1の年度生ごとの学籍推移から、特に学費未納を理由とする除籍による中退の比率と規模の推移を見る。なお本学では学費未納の場合、除籍処分を行うと規定しており、図の中ではそれぞれの一番下の箇所が除籍となる。初年度の2005 年度生は比較的少数だったが、2007 年度生では15.9% に達し、2010 年度生では18.3%が除籍となった。他の理由の中退も含めると中退率は30% 前後で推移した。

ただし、2013 年度生以降は、学費未納を理由とする除籍による中退はほぼ10% 以内に抑えられている。後述する学費支援策の効果により、経済的理由での中退が減少し、学費問題による中退は約半減し、卒業者数の増加に寄与した。

image.png

図1:年度生ごとの学籍推移

2. 中退の分析